専門家が教えるワンポイント

エイジド・ドライバー総合応援サイト(高齢ドライバー向けウェブトレーニング)のチェックやトレーニング、ストレッチを監修した専門家が教える、運転のためのワンポイントを紹介します。

認知のプロ

認知のプロ 浦上 克哉 教授

鳥取大学医学部保健学科 生体制御学
医学博士
専門:脳神経疾患、認知症
浦上 克哉 教授(うらかみ かつや)

早期ケアで運転寿命を延ばす①
早期ケアで運転寿命を延ばす②

目のプロ

目のプロ 川守田 拓志 准教授

北里大学 医療衛生学部 視覚機能療法学
視機能訓練士 医学博士
専門:眼光学、視覚中心設計
川守田 拓志 准教授(かわもりた たくし)

見る力の低下を安全運転で補う

耳のプロ

耳のプロ 中川 雅文 教授

国際医療福祉大学 医学部
耳鼻咽喉科 医学博士
専門:聴覚生理学、臨床聴覚コミュニケーション学、補聴医工学、感性医学
中川 雅文 教授(なかがわ まさふみ)

Q1:高齢になると聴力にどんな変化が起こるか教えてください。

A1:加齢とともに高い周波数が聞こえにくくなり、聞き返すことが多くなります。
特に周囲が騒がしいところでは、「あくしゅ」と「はくしゅ」、「しぶや」と「ひびや」、「かとう」と「さとう」などの聞き間違いをすることが増える傾向があります。

Q2:聴力の低下は運転にどのような影響がありますか?

A2:騒がしいところでの聞き間違いは運転中でも生じます。走行音というノイズに邪魔されて聞き取りが難しくなるからです。
例えば、同乗者の話すルート案内が聞きとれずに、曲がるべきところで曲がれないことなどが増えると考えられます。
また、難聴があるとラジオやカーステレオの音も大きくなりがちで、周囲の車のクラクションに気づくのが遅れたり 、追い越していく車に気づけずにヒヤリとすることが増えてきます。

Q3:聴力と認知力にはどのような関係がありますか?

A3:私たちは、“目で見る”ことに加えて、“耳で聞く”ことの情報を合わせて刻々と変化する事象を認知・判断しています。それは、生理的かつ反射的なもので 、どちらが欠けても正確な判断が難しくなります。
例えば、救急車のサイレンが聞こえているのに救急車が視野に入っていない時、どこで音が鳴っているか分からないという経験をしたことはありませんか? 聞こえるだけもしくは見えるだけでは正確に事象を認識できない可能性があるのです。

Q4:トレーニングで聴覚認知力は回復するものですか?

A4:いわゆる加齢性の難聴を、元通りに“聞こえる耳”に戻すことはできません。
しかし、トレーニングで選択的な注意力を高め、聴力低下に伴う認知力を補うことはできます。例えば、走行音などのノイズ下における後続車のクラクションや、追い越してくるバイクの音を聴き分けるなど、運転に必要な聴覚認知の力を選択的に高めることは可能だと考えます。

Q5:低下した聴力を回復させる方法はありますか?

A5:聴覚は騒音に長い時間さらされることで疲弊しますが、十分な休息と水分補給、ストレッチなどで回復も期待できます。1時間運転したら5分の休憩をとり、水分補給もする。サービスエリアやパーキングエリアの公園で鉄棒にぶら下がり、屈伸などのストレッチ運動をする。1日8時間以上の運転を控える。長い時間運転した際は、できるだけ静寂な部屋で8時間程度の睡眠をとるなど、聴力を回復するための工夫をすると良いでしょう。

Q6:高齢者運転者にメッセージをお願いします。

A6:安全に運転をするためには、目で見る力や耳で聞く力、手足の力などがしっかりと機能し、連携している必要があります。その中でも聞く力は、周囲の情報を察知する重要な感覚情報です。
しかし、人は誰しも加齢に伴い聴力が衰えていきます。高齢者になっても長く楽しく運転を続けるために、トレーニングを通じて日々、自分の弱点を見つけ、それを克服するように努力することで認知力を高めていきましょう。

作業療法のプロ

作業療法のプロ 藤田 佳男 准教授

千葉県立保健医療大学 作業療法学専攻
日本作業療法士協会「運転と作業療法委員会」
博士(リハビリテーション科学)
専門:運転リハビリテーション、有効視野と運転適性
藤田 佳男 准教授(ふじた よしお)

Q1:高齢になると運転に関わる運動機能にどんな変化が起こるか教えてください。

A1:加齢による運動機能の低下は30歳前後から始まりますが、個人差が大きいと言われています。最も運転に影響するのは筋力の低下で、単に力の問題だけでなく運転操作の正確さや素早さにも影響し、ふるえなどの問題が生じることもあります。また、柔軟性の低下は関節の可動域(動く範囲)に影響し、運転席への乗り降りに努力が必要になることや後方の安全確認が困難になることなど、運転に必要な動きを小さくしてしまいます。さらに、適切な運転操作には手や足の感覚が重要です。運動機能と感覚機能は相互に関連があり、感覚機能が低下すると正確な操作が困難になります。

Q2:なぜ、運転に身体の柔軟性が必要なのですか?

A2:運転だけでなくさまざまな生活動作をおこなうためには、関節の可動域が狭くならないよう維持することが重要です。関節が固くなることにより可動域が制限されてしまうと、動作に無理や痛みが生じ、痛みがさらに可動域を制限するという悪循環に陥ってしまうからです。
可動域が制限されると、運転中の動作がスムーズにできなくなったり、運転姿勢が悪くなることで、疲れが溜まりやすくなったりする可能性があるので、柔軟性が必要なのです。
可動域の制限は、運転動作や生活動作を非効率にするだけではありません。可動域の制限が小さく、柔軟性のある子どもは歩行中に転倒しても大けがをしにくいものです。しかし、可動域に制限がある高齢者は、交通事故などでの被害が重症化しやすく、歩行中の転倒などでも手首の骨や大腿骨を骨折しやすくなります。
可動域の制限にはさまざまな要因がありますが、過緊張(筋肉を緊張させる必要性がないのに過度に張ってしまうこと)による可動域の制限は体操や適切な運動でほぐすことができます。

Q3:肩回りの柔軟性の低下は運転にどのような影響がありますか?

A3:物を持ち上げる等の生活動作や、パソコンやスマートフォンの操作など、腕を空中に保持し続けるための生活動作は肩回りの筋肉の負担となります。それゆえ、肩こり(首こりを含みます)を引き起こす筋肉が常に過緊張である方が少なくありません。肩回りの柔軟性が低下していると、運転時にハンドルを素早く、大きく回すなどの操作に影響を及ぼす可能性があります。

Q4:体や首の柔軟性の低下は運転にどのような影響がありますか?

A4:体や首の柔軟性の低下は、振り返っての目視などの安全確認に影響があります。高齢者は若年者と比べて、振り返り角度が40度近く少ないという調査結果 *があり、そのためか直接の目視による安全確認を省略する傾向が見られることも報告されています *
また、シートベルトに手を伸ばしづらくなることや、乗り降りしづらいと感じる車種が出てくることも考えられます。

Q5:背中の柔軟性の低下は運転にどのような影響がありますか?

A5:首を含めた背中全体の筋肉が緊張している場合は、運転中にシートと背中の一部が接触しない状態にあり、疲労が強まるなどの可能性があります。また、背中が丸まった形で運転している場合は、頭が下向きになることで信号等を見落としたり、首を無理に持ち上げ続ける体勢になることで、首回りにこりや痛みが発生したりする可能性もあります。

Q6:低下した運転能力を回復させる方法はありますか?

A6:運転能力をどう定義するのかで違いがありますが、認知リハビリテーション、PCやドライビングシミュレータを用いた訓練* 、指定教習所等での実車指導、適切な運転者教育などで維持・向上することが報告されています。また、運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気に該当するおそれのある方に対して、医師の指示の下で作業療法士等が運転適性の評価や指導(運転作業療法※)をおこなうケースが増えています。
運転に関わる身体の柔軟性に限ると、ドライビングストレッチのような体操の活用で、現在の可動域を維持・改善していくことは可能です。しかしながら、若いころの可動域に完全に戻る訳ではありません。現在の状態より可動域が狭まらないように、継続してストレッチを続けていくといいでしょう。

Q7:高齢運転者にメッセージをお願いします。

A7:加齢による機能低下は個人差が大きいだけでなく、それぞれの特徴や個性があります。「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」の言葉どおり、彼(どのような交通場面でどの程度の危険があるのか)を、ドライバーズセミナー シニアコースをはじめとした体験型講習会や自動車教習所で行われる講習および指導などのさまざまな交通安全教育に参加して深く知ることが重要かと思います。さらに、己(自分の運転に関する認知、運動機能の特徴)を知るために、同世代で相互に振り返ることや、医師や作業療法士等の保健医療従事者、教習指導員、交通心理学の専門家などに相談するのも良い方法でしょう。
また、ドライビングストレッチをすることで、身体の柔軟性が維持できるだけでなく、血流が増加して脳がスッキリする効果もあります。運転という作業には、注意・集中力に影響をおよぼす過度の疲労もあってはいけませんので、ドライビングストレッチを活用して無理・無駄のない動作を維持し、疲労をためずに、楽しく快適に安全運転を続けていきましょう。

※運転作業療法
運転作業療法は、主に病院等で医師の指示の下、運転に関するさまざまな検査をおこない、運転を行う場合はその能力の維持向上や指導を、運転を行わない場合は、健康的な生活ができるよう必要な支援をおこなうものです。また、作業療法士とは、人が営む生活行為(食事や入浴など日常的におこなう生活動作や、家事、仕事等のあらゆる活動)に対して医学を中心としたさまざまな観点から分析し、治療、指導、援助をおこなう国家資格*です。

  • *ⅰ伊藤元ら,体幹回旋運動の加齢変化,リハビリテーション医学,20(5)1983
  • *ⅱ蓮花一己ら,高齢ドライバーと中年ドライバーのリスクテイキング行動に関する実証的研究.応用心理学研究,39,2014.
  • *ⅲ加藤貴志,認知機能における自動車運転支援.作業療法とドライブマネジメント,文光堂,2018.
  • *ⅳ日本作業療法士協会,「作業療法の定義」を改訂しました,
    https://www.jaot.or.jp/about/topics/detail/271/

高齢者講習情報

高齢者講習とは

70歳以上になると、免許更新時に「高齢者講習」を受ける必要があります。
75歳以上になると「講習予備検査(認知機能検査)」も加わります。