電動キックボードの衝突実験(JAFユーザーテスト)

テスト実施日・諸条件

実施日 2023年5月18日(木)、5月19日(金)
テスト場所 一般財団法人 日本自動車研究所 衝突試験場(茨城県つくば市)
テスト背景 2023年7月から改正道路交通法の一部が施行され、16歳以上であれば無免許・ヘルメット非着用でも運転できるようになった電動キックボード(特定小型原付の場合)。歩道では6km/hで、自転車専用道路や車道では20km/hで走行できる電動キックボード(特定小型原付の場合)だが、自転車、電動キックボード、自動車など速度域の異なる乗り物が混在することで、新たな交通事故が発生すると考えられる。そこで、電動キックボードが街中で遭遇しそうな交通場面を再現し、走行速度やヘルメット有無によって衝突・転倒時の危険度はどう変化するのか検証した。
テスト内容

電動キックボードにダミー人形を乗せてレールにセットし、6km/hもしくは20km/hの一定速度で「縁石」「歩行者」「自転車」「自動車」に衝突させた。その際の頭部損傷を示す値(HIC値)をそれぞれ計測し、けがのリスクを検証した。

テストで使用した電動キックボード
車両提供:長谷川工業(株)
電動キックボードを固定する
装置とレール
手前が対象物(縁石、歩行者、自転車、自動車)
衝突直前でレールとダミーを結ぶワイヤーを切り離し、自走状態で衝突させた。

HIC値とは…?

Head Injury Criterionの略で、衝突や落下などの衝撃による脳や頭蓋骨への損傷程度を表す数値のこと。
交通事故におけるケガのリスクに詳しい名古屋大学・水野教授によると、HIC1000を超えると脳損傷の可能性があり、HIC3000を超えると非常に高い確率で重篤な傷害が発生するという。


テスト1 縁石に乗り上げて転倒した際の危険性について

ダミー人形を乗せた電動キックボードを20km/hでけん引し、高さ10cmの縁石に衝突させた。転倒時の頭部損傷値(HIC値)を計測した。

テストで使用した縁石

<概要>
揃えた条件:速度20km/h
異なる条件:ヘルメット着用・非着用
縁石に垂直に衝突させ、転倒した際のHIC値を計測した

テスト2 歩行者および自転車に衝突した際の危険性について

ダミー人形を乗せた電動キックボードを6km/h、20km/hでけん引し、静止している歩行者と自転車に衝突させた。対象物との衝突(以下、一次衝突)と転倒(以下、二次衝突)した際の頭部損傷値(HIC値)を計測した。

歩行者と自転車をレールの延長線上に配置し、
電動キックボードを衝突させた。

<概要>
揃えた条件:ヘルメット着用
異なる条件:速度(6km/h か 20km/h)
歩行者と自転車それぞれに垂直に衝突させ、転倒した際のHIC値を計測した

テスト3 自動車に衝突した際の危険性について

ダミー人形を乗せた電動キックボードを20km/hでけん引し、静止している自動車に衝突させた。自動車との一次衝突と二次衝突の頭部損傷値(HIC値)を計測した。

自動車をレールの延長線上に配置し、
電動キックボードを衝突させた。

<概要>
揃えた条件:速度20km/h
異なる条件:ヘルメット着用・非着用
自動車に垂直に衝突させ、転倒した際のHIC値を計測した

テスト結果

テスト1 縁石に乗り上げて転倒した際の危険性について

ダミー人形を乗せた電動キックボードを20km/hでけん引し、高さ10cmの縁石に衝突させた際、以下のような結果となった。

ヘルメット着用のHIC値 ヘルメット非着用のHIC値
1231.8 7766.2

ヘルメット着用(左上写真)とヘルメット非着用(右上写真)で比較検証
前輪が縁石を乗り上げ、ダミー人形が前方に転倒。
頭部を地面に叩きつけられた。

  • ヘルメット着用している場合でも、基準となるHIC値が1000を超える結果となり、頭蓋骨骨折のリスクがあるほどの衝撃だった。
  • 一方で、ヘルメット非着用の場合は、HIC値が基準の1000を大幅に超える7766.2と、ヘルメット着用している場合の約6倍の数値となり、重篤な頭部損傷になるリスクや死亡するリスクが高い結果となった。

テスト2 歩行者および自転車に衝突した際の危険性について

ダミー人形を乗せた電動キックボードを6km/h、20km/hでけん引し、静止している歩行者と自転車に衝突させた際、それぞれ以下のような結果となった。

<歩行者と衝突した場合>

6km/hの場合 一次衝突のHIC値 二次衝突のHIC値 20km/hの場合 一次衝突のHIC値 二次衝突のHIC値
歩行者 9.9 4351.8 歩行者 73.7 6957.8
電動キックボード 16.3 783.5 電動キックボード 73.7 80.5

※電動キックボードはヘルメット着用で実施

歩行者に電動キックボードが衝突した場合。
衝突後に歩行者を押し倒して転倒。歩行者は転倒して後頭部を地面に叩きつけられた。
電動キックボードのドライバーも前方に倒れ、頭部を地面に打ち付けた。
  • 一次衝突のHIC値は低くなった。
  • 衝突後に歩行者が後方に倒れて、地面に頭部を打ち付けた際のHIC値は基準の約4~7倍の数値となり、頭蓋骨骨折や脳損傷、死亡のリスクが高い結果となった。
  • 電動キックボードの速度が速いほど、危険性が高くなる傾向が見られた。

<自転車と衝突した場合>

6km/hの場合 一次衝突のHIC値 二次衝突のHIC値 20km/hの場合 一次衝突のHIC値 二次衝突のHIC値
自転車 0.0 102.5 自転車 5.4 508.9
電動キックボード 0.2 14.3 電動キックボード 24.4 142.5

※電動キックボード、自転車ともにヘルメット着用で実施

自転車に電動キックボードが衝突した場合。
歩行者の左腕に衝突後、歩行者を押し倒して転倒。自転車は転倒してドライバーは後頭部を地面に叩きつけられた。
電動キックボードのドライバーも前方に倒れ、頭部を地面に打ち付けた。
  • 電動キックボードも自転車もダミー人形はヘルメットを着用していたため、HIC値は1000を超えることはなかった。
  • 歩行者の場合と同様、電動キックボードの速度が速いほど、危険性が高くなる傾向が見られた。

テスト3 自動車に衝突した際の危険性について

ダミー人形を乗せた電動キックボードを20km/hでけん引し、静止している自動車に衝突させた際、それぞれ以下のような結果となった。

一次衝突のHIC値 二次衝突のHIC値
ヘルメット着用 19.7 147.9
ヘルメット非着用 12.8 6346.3
ヘルメット着用の場合
衝突後ドライバーは前方に倒れ、自動車のピラーに頭部をぶつけた。
その後、お尻から地面にうちつけ、頭部を地面に叩きつけた。
ヘルメット非着用の場合
衝突後ドライバーは前方に倒れ、自動車のフロントガラスに頭部をぶつけた。
その後、お尻から地面にうちつけ、頭部を地面に叩きつけた。
  • ヘルメットを着用、20km/hで自動車の右側面より衝突した際は、頭部をピラーに打ち付けたが、その前に電動キックボードの前方にあるメインフレームがぶつかったため、HIC値も19.7と低い値になった。
  • その後、頭部を地面に叩きつけたが、お尻から地面にぶつかったこと、またヘルメットを着用していたため、HIC値は147.9と低い値になった。
  • ヘルメット非着用、20km/hで自動車の左前方に衝突した際は、頭部をフロントガラスに打ち付けたが、その前に左腕がぶつかったため、HIC値も12.8と低い値になった。
  • その後、頭部を地面に叩きつけたが、ヘルメットを付けていなかったため、HIC値は6346.3と非常に高くなり、頭蓋骨骨折や脳損傷、死亡のリスクが高い結果となった。

<参考:20km/hで頭部を直接フロントガラスに衝突した場合>

実験では電動キックボードや腕が先にぶつかっていたが、頭部から衝突することを想定し、フロントガラスにダミー人形の頭部(4.5kg)を高さ1.6mの位置から落とし、20km/hでフロントガラスに直接頭部をぶつけた場合の衝撃を再現した。フロントガラスはクモの巣状にヒビが広がって割れるほど衝撃は強く、頭蓋骨骨折や脳損傷、死亡のリスクが高いことが予想される。ヘルメット着用の重要性が改めて実感できる検証となった。

<参考:ヘルメットの安全性とは?>

▼自動車に20km/hで衝突した場合(二次衝突)のHIC値

▼縁石に20km/hで衝突した場合のHIC値

まとめ

  • 電動キックボードが対象物に一次衝突したときよりも、転倒して地面に二次衝突したときのほうがHIC値は高くなり、より影響が大きいことが明らかとなった。
  • 電動キックボード(特定小型原付の場合)は、16歳以上であれば免許なしで気軽に乗れる便利な乗り物である。
  • しかし、走行中に転倒して地面に頭を打ち付けた場合、頭部への衝撃が重篤な頭部傷害や死亡事故につながるため、頭部を保護するヘルメットはとても重要な役割をもつ。
  • 制限速度(歩道6km/h、車道20km/h)を守ったうえで、周囲の環境や状況に応じて、速度を落としたり、一時停止するなど配慮することも大切である。
  • 電動キックボードを乗る際は、あご紐を確実に締めるなど正しくヘルメットを着用し、交通ルールやマナーを守り、安全に走行しましょう。

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