落雷時、車や車内にいる人への影響は?(JAFユーザーテスト)

テスト実施日・諸条件

実施日 2023年8月22日(火)~8月25日(金)
テスト場所 一般財団法人 電力中央研究所 塩原実験場(栃木県那須塩原市)
テスト背景 近年、夏から秋にかけて急激に天候が変わり、雷を伴うゲリラ豪雨など異常気象が増えている。雷に打たれた場合、人体への影響として命を落とすこともあるため、避難先として一般的に車の中にいれば安全だと言われている。そこで、人工的に雷を発生させる装置を使用して、車に雷を落とし、車やドライバーに与える影響について検証した。
テスト内容

1200万V衝撃電圧発生装置により、インパルス電圧(放電電流:約20,000A)を加え、車に気中放電を発生させ、車への影響を確認した。

衝撃電圧発生装置

テスト車両のハイブリッド自動車(以下、HV)と電気自動車(以下、EV)

●試験条件

  • 試験電圧:1200万V衝撃電圧発生装置
  • 充電電圧:960万V
  • 放電電流:波高値 約20,000A
  • ギャップ長:3m(棒電極から自動車までの距離)

※一般家庭では10~60A、100Vが使用されている

●テスト車両の条件

  • エンジンまたはEVシステムON
  • エアコン25℃ 内気循環
  • カーナビ起動中
  • スマートフォン充電しながら起動中
  • マネキン乗車

テスト1 車に落雷した場合、走行は可能なのか、また車に与える影響について検証

車の直上に雷を落とした後、車は走行が可能なのか、またカーナビや灯火類、エアコンなどの電装品が問題なく機能するのか、JAFロードサービス隊員が確認し、検証した。

車に雷を落としている様子
JAFロードサービス隊員が車の状態を確認した

落雷した車の電子制御装置などをツールプラネット社製TPM-iを使用し、診断した

テスト2 車に落雷した場合、車内にいる人への影響について検証

車の直上に雷を落とし、車内にいる人に影響があるのかをアルミホイルを全身に巻き付けたマネキンを使用して検証した。

車に雷を落としている様子
アルミホイルを巻いたマネキンを乗車させ、車内に雷が入るか映像で確認した

●マネキンの条件

<全てのドア・窓が閉じた/運転席の窓を少し開けた場合>

  • 右手:ハンドル
  • 左手:シフトノブ
  • 右足:アクセルペダル
  • 左足:フットレスト

<運転席のドアを開けた場合>

  • 右手:ドアノブ(変更箇所)
  • 左手:シフトノブ
  • 右足:アクセルペダル
  • 左足:フットレスト

テスト結果

テスト1 車に落雷した場合、走行は可能なのか、また車に与える影響について検証

車の直上に雷を落とした後、車は走行が可能なのか、またカーナビや灯火類、エアコンなどの電装品が問題なく機能するのか、JAFロードサービス隊員が確認・検証した際、以下のような結果となった。

雷の痕跡がタイヤに見られた
灯火類は問題なく点灯した
パワーウィンドウは問題なく作動した

●インジケーターの警告灯について

HVの場合
EVの場合

落雷後に各車両のインジケーターを確認したところ、上記のような警告灯が点灯した

●車の電子制御系機器の診断結果について

HVの場合
EVの場合
  • 車の電子制御系機器を診断したところ、HVはエンジンECU通信異常やHV/EV系回生異常、HV/EV系異常などの診断が出た。
  • 一方、EVはEV-HEVシステムや高電圧バッテリシステム、電動型制御ブレーキ機能故障などといった診断が出た。
  • 車と雷の関係に詳しい中部大学・電気電子システム工学科の山本教授によると、「エンジンやEVシステムが始動しなかったのはECU(車の電子制御をする装置)が壊れたり、異常な電流を検知してセーフティシステムが作動した可能性が考えられる。タイヤに関しては今回は痕がついただけではあったが、パンクする可能性もある」とのことだった。

テスト2 車に落雷した場合、車内にいる人への影響について検証

車の直上に雷を落とし、車内にいる人に影響があるのかをアルミホイルを全身に巻き付けたマネキンを使用して検証した際、以下のような結果となった。
<全てのドア・窓が閉じた場合>
<運転席の窓を少し開けた場合>

  • それぞれの場合で、雷が車内に入り込んだ様子は見られず、マネキンに焦げ痕なども見られなかった。
運転席の窓を少し開けた場合
車内の様子

<運転席のドアを開けた場合>

  • ドアの先端に複数の放電が見られた。
  • 雷が車内に入り込んだ様子は見られず、マネキンに焦げ痕なども見られなかった。
車内の様子
  • 今回の結果について、山本教授によると「過去の実験や落雷実験でも、乗員が直接大きな被害を受けた例はない。車に落雷すると車の金属部分を通り、タイヤから放電するため、車内へ電流は流れにくい。ただし、車内でもピラーなどボディの金属部分へ接触すると安全とは言い切れないため、金属部分には触らないでほしい」とのことだった。

<その他確認できた現象>

落雷時にヘッドライトが消えた
落雷時に誤作動を起こし、サイドエアバッグが開いた

<参考1:雷がフロントガラスやボンネットに落ちた場合>

棒電極の位置を移動させ、雷がフロントガラスやボンネットに落ちるように調整。それぞれの影響について検証した。

雷をフロントガラスに落とした
フロントガラスに着雷痕がついた
雷をボンネットに落とした
ボンネットに着雷痕がついた

<参考2:雷の特徴について>

車よりも背の高いマネキンを車の側に置いて、雷がどこに落ちるのかを検証した。

雷はマネキンの頭めがけて落ちた
帽子には着雷痕がついた
  • 今回の結果について、気象学における雷に詳しい、防衛大学校・地球海洋学科の小林教授によると、「この映像のように人に落ちることがある。それは高いところに落ちやすいという落雷の性質を物語っている。車外の危険性は、日常生活やキャンプ、海水浴などのレジャー問わず大きい。構造物がないときは車内が最も安全な空間となることを知っておき、迅速な退避行動をとってほしい」とのことだった。

まとめ

  • 車に落雷した場合、走行ができなくなる可能性が高いため、運転中に急な雷雨や雷に遭遇した場合は無理せず、屋内の駐車場など安全な場所に避難しましょう。
  • 当テストでは人体への影響はほぼ見られなかったため、車内は車外より安全性が高いといえます。
  • 周囲に構造物がなければ車内に避難し、車のボディと繋がっているピラーなどの金属部分には触れずに、雷が通り過ぎるのを待ちましょう。
  • 万が一、運転中に雷に遭遇した際は、一般道路の場合は路肩や駐車場などに停車し、高速道路の場合はSA・PAなどの駐車できる場所まで移動して、安全を確保しましょう。
  • 外出する際は、あらかじめ気象情報を確認し、大雨や雷雨の予報が出たら、なるべく外出を控えることも大切です。
  • やむを得ず運転する場合も、より安全な経路や時間を選択するなど、危険を回避する対策を取りましょう。

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