
[A]危険運転致死傷罪は自動車運転死傷処罰法で規定され、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することになります。

- 危険運転致死傷罪は、危険な運転により人を死傷させた場合に科される刑罰。
- 当初は刑法の中に含まれていたが、2014年に自動車運転死傷処罰法として独立。
- 危険運転による事故で人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。
被害者からの厳罰化を求める声に対応
自動車運転中に過失で人を死傷させた場合は、長い間、刑法第211条で定められた「業務上過失致死傷罪」が適用されていましたが、飲酒運転などによる悲惨な交通事故が少なからず発生したことから、被害者などを中心に、従来の刑法では罰則が軽すぎるのではないかといった厳罰化を求める声が上がるようになりました。加えて国民の関心の高まりもあり、2001年の刑法の一部改正で「危険運転致死傷罪」が新設されました。さらに、過失による死傷事故の場合でも、実態に合わせた妥当な刑罰を科するため、2007年の刑法の一部改正で「自動車運転過失致死傷罪」が追加されました。
そして、運転の悪質性や危険性に見合った処罰ができるように、これらを刑法から移し、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(略称:自動車運転死傷処罰法)が新たに成立、2014年に施行となりました。「危険運転致死傷罪」は同法第2条に規定され、当初は以下の行為を行い人を負傷させた者は15年以下の懲役、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することになりました。
- ①アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
- ②その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
- ③その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
- ④人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
- ⑤赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
- ⑥通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
法律施行後も改正のための検討が続く
しかし、上記項目の行為においては、「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する」ことが条件になっており、昨今のあおり運転に見られるような「高速道路などで徐行または停止させる」行為は危険運転に該当するかがあいまいでした。そのため、2020年7月2日施行の改正自動車運転死傷処罰法では、以下のように危険運転致死傷罪で処罰される行為が2つ付け加えられました。
- ① 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
- ②高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為
これにより、あおり運転により高速道路等に停止させたり徐行させたりすることによって、死傷事故に結びついた場合もまた危険運転致死傷罪の処罰の対象となりました。
さらに2025年3月には、危険運転致死傷罪の適用要件があいまいとの指摘がある中、どの程度の飲酒運転や高速走行が危険運転にあたるかを明確にするため、体内のアルコール濃度や速度の数値基準を設けるかどうかを含めた検討を、法務大臣の諮問機関である法制審議会で進めていくことになりました。
なお自動車運転過失致死傷罪は、同法第5条で過失運転致死傷として、7年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処するとありますが、傷害が軽いときは情状により、その刑を免除することができるとも記してあります。
2025年05月現在