[A]運転時の視界確保、飛び石など飛来物からの保護、事故が起きた時の被害軽減など、ガラスに求められる役割に応じた種類があります。
- フロントウインドウは合わせガラスが義務づけられている。
- サイド、リアウインドウは耐久性が高い強化ガラスが主流。
- 安全性と快適性を考慮してさまざまな付加機能も備わっている。
自動車のウインドウガラスに使われる安全ガラスとは
自動車のウインドウガラスには、運転時の視界確保、飛び石など飛来物からの保護、事故が起きた時の被害軽減など、ドライバーと同乗者の安全や快適性を確保する役割があります。そして、たとえば可視光線の透過率が70%以上であるなど、詳細な保安基準が設けられています。こうしたガラスは「安全ガラス」と呼ばれ、自動車専用に設計・製造されています。 安全ガラスには大きく分けて「合わせガラス」「強化ガラス」「部分強化ガラス」の3種類があります。また、ポリカーボネートやメタクリルなどの硬質合成樹脂素材で作られた「有機ガラス」も安全ガラスに含まれます。
「合わせガラス」「強化ガラス」の特徴と役割
合わせガラスは、2枚のガラスの間に「中間膜」と呼ばれる透明樹脂フィルムをはさんで貼り合わせた3層構造のガラスです。強い衝撃を受けてもヒビが入るだけで視界を大きく妨げず、粉々に砕け散ることもありません。また、事故の際に体などが衝突しても、中間膜が衝撃を吸収することで、大けがになりにくいような安全性を備えています。
1987(昭和62年)9月以降に製造される自動車のフロントガラスには、合わせガラスを装備することが道路運送車両法に基づいた「道路運送車両の保安基準」で義務づけられています。 合わせガラスは、事故の際に搭乗者がはずみで車外へ飛び出したり、窃盗目的でガラスを割って侵入されたりすることも難しくなっています。また中間膜に特殊素材を使えば、人体に有害な紫外線(UV)や熱をもたらす赤外線(IR)をカットしたり、静音性を高めたりすることも可能です。そのため最近では、フロントだけでなく前席のサイドウインドウにも、合わせガラスを採用している車種があります。
強化ガラスは、板ガラスを700℃近くまで熱し、空気中で急速冷却することによって表面に「圧縮応力」という衝撃を打ち消す特性をつけたガラスです。衝撃抵抗が普通の同厚ガラスの3〜5倍と、割れにくいのが大きな特徴です。急激な温度変化にも強く、170℃ぐらいまで耐えられます。 強化ガラスに強い衝撃を与えると、網目状の亀裂が入り粉々に砕け散ります。その際、破片は角のない粒状となり、ガラス片によって大きなけがをするリスクが少なくなります。ただし、割れた時に細かな亀裂が視界を妨げたり、破片がドライバーの目に入ったりする危険性はあり、フロントガラスに使うことはできません。現在では主にサイドウインドウ、リアウインドウに用いられています。
部分強化ガラスは、強化ガラスの生成過程で冷却範囲を部分的にし、割れても亀裂が粗く視界を妨げないよう工夫されたガラスです。元々はフロントガラス用に開発されましたが、現在はより安全性の高い合わせガラスの装備を義務付ける保安基準の規定によって使用できません。
運転に必要な情報をフロントガラスに投影するヘッドアップ・ディスプレー用ガラス
ほかにも自動車のウインドウガラスには、さまざまな機能を備えたものがあります。プライバシーガラスは、可視光線の透過を抑えて車内を見えにくくするもので、後席のサイドウインドウ、リアウインドウに使われます。また、ガラス表面に導電線などをプリントしアンテナとしての機能を持ったもの、曇りを除去する熱線を埋め込んだものも普及しています。
新技術では、速度やナビゲーションなど運転に必要な情報をフロントガラスに投影するヘッドアップ・ディスプレー(HUD)用ガラスが注目されています。ガラス表面の乱反射を抑え、光学技術を導入した中間膜でクリアなカラー映像が投影できます。
この他、次世代HUD用ガラスとして、情報の投影に特殊なレーザーを用いる技術に対応するガラス、中間膜を加工することでフロントウインドウに全面投影できるガラスなども登場しています。さらに自動運転技術の分野では、AI(人工知能)の目となる車載カメラが歪みのない鮮明な画像をとらえられる、高精度なフロントガラスの開発も進んでいます。
2022年08月現在