
[A]近年、自動車が絡む人身事故に対しては厳罰が求められるようになりました。

- 悪質かつ危険な運転に見合った処罰ができるよう、刑法から独立した法律を施行。
- 危険運転致死傷罪は人を負傷させた者は15年以下、人を死亡させた者は1年以上の有期拘禁刑。
- 業務上過失致死傷罪から独立した過失運転致死傷罪は7年以下の拘禁刑。
危険運転による悲惨な事故の増加に対応
近年、自動車が絡む人身事故に対しては厳罰が求められるようになりました。
2001年以前は、自動車による人身事故は刑法第211条「業務上過失致死傷罪」が適用されており、最長で懲役5年が課せられました。
ここでいう業務とは、人がその社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う行為で、他人の生命、身体に危害を加える恐れのあるものを言い、営利目的かどうかは問わないとされています。自動車の運転は業務とみなされます。
過失とは第211条の条文にもある「必要な注意を怠った」、つまり不注意のことを言います。衝突相手の自動車が信号無視をした場合など、事故の予見や回避が不可能な場合は無過失となる場合もあります。
しかし、過失とは到底言えない危険な運転により人を死傷させた事故が相次いだことから、自動車が絡む人身事故の罰則強化を求める声が高まりました。
そこで2001年、刑法208条の2として、危険運転致死傷罪が設けられました。2007年には四輪以上という限定がなくなり、自動二輪車も対象になりました。具体的には、以下のような運転行為により、人を負傷させた者は10年以下の懲役、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することになりました。その後、人を負傷させた者は懲役15年以下、人を死亡させた者は有期懲役20年以下となりました。
- 1.アルコールまたは薬物の影響により正常な運転が困難な状態での走行
- 2.進行を制御することが困難な高速度での走行
- 3.進行を制御する技能を有しないでの走行
- 4.人または車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入、通行中の人または車に著しく接近かつ重大な交通の危険を生じさせる速度での運転
- 5.赤信号またはこれに相当する信号をことさらに無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度での運転。
「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」とは
続いて2007年、刑法第211条の2として施行された自動車運転過失致死傷罪は、業務上過失致死傷罪から交通事故に関する規定を独立させたもので、最高刑は懲役5年から7年に引き上げられています。
それでも運転の悪質性や危険性に見合った処罰としては不十分という意見が多く出されたことから、これらを刑法から独立させることになり、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(略称:自動車運転死傷処罰法)が2014年に施行となりました。
危険運転致死傷罪は同法第2条で規定され、人を負傷させた者は15年以下、人を死亡させた者は1年以上の有期拘禁刑となりました。過失運転致死傷罪は第5条で、7年以下の拘禁刑となっています。ちなみに拘禁刑とは、懲役と禁錮をまとめた表現で、2025年の改正刑法で規定されています。
このほか第4条では、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱についても規定しています。こちらはアルコールまたは薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り人を死傷させた場合に、アルコールまたは薬物の影響が発覚することを免れる行為をしたときは、12年以下の拘禁刑に処するとなっています。
危険運転致死傷罪 | 人を負傷させた者は15年以下の拘禁刑、人を死亡させた者は1年以上の有期拘禁刑 | 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条 |
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為 高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為 |
---|---|---|---|
過失運転致死傷罪 | 7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 | 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条 |
自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた者 傷害が軽いときは情状により、その刑を免除できる可能性あり |
(参考)業務上過失致死傷罪 | 5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 | 刑法第211条 | 業務上必要な注意を怠り、人を死傷させた者 |
2025年07月現在